山口 越後守

やまぐち えちごのかみ

　戦国後期における金沢の流通商人。山口氏は１５世紀中末期あたりから史料上にみえる金沢の有力商人であり、越後守もまた江戸湾水運に深く関わった。

　 越後守の史料上の初見は天正三年（１５７５）十二月で、当時安房を管轄していた里見義継から、「海中往行」の安全を保障されている。その後、越後守は天正七年五月には房総正木氏から正木氏領内の津への自由乗り入れを認められ、同年九月には上総の里見梅王丸から分国中すべての津における「商売之船」の乗り入れの際の諸役免除特権を得ている。

　越後守は北条氏からも同様の権利を認められていたとみられ、複数の勢力に同時に属しながら江戸湾、房総方面を縦横に活動する流通商人であったと推定される。

　 越後守が正木氏らから領内への自由入港を認められた天正七年という年は、房総半島を支配下におく里見氏の内部で、安房の里見義継と上総の梅王丸の後継者争いが起こっており、この間隙を縫って里見氏傘下の有力国人・房総正木氏が離反・自立の意思を鮮明にしていた時期だった。そして越後守は対立するそれぞれの勢力から同様の特権を確保していたのである。

　このことは権力側からの商人の保護・統制というよりは、混沌とする房総情勢を分析した越後守が、権力側の足元を見透かすように自らに有利な特権を要請し、獲得していった可能性が高い。当然その背景には、越後守が持つ経済力や海上輸送能力あるいは軍事力があったものと思われる。

関連人物

その他の関連項目

参考文献

  • 滝川恒昭　「海の境界を生きる商人・職人」（藤木久志・黒田基樹　編　『定本　北条氏康』　高志書院　２００４）
  • 滝川恒昭　「山口越後守」　（ 戦国人名辞典編集委員会・編　『戦国人名辞典』　吉川弘文館　２００６）