橘

たちばな

　阿波国南部の大河川・那賀川河口部南方の港町。小島が浮かび、天然の良港を形成する広い湾（橘湾）に面していた。中世、那賀川上流域で伐り出される材木の積出港の一つとして栄えた。

木材の積出港

　文安二年（１４４５）における関税台帳である『兵庫北関入舩納帳』によれば、この年に三回の橘船籍船の兵庫北関への入港が確認される。その積荷はいずれも百五十石前後の榑（規格化された材木）であり、木材の産地として知られる那賀川上流で切り出された材木や榑が橘にも運ばれて積出されていたことがうかがえる。

阿波の港とのつながり

　また橘船の船頭は三回とも「刑部」という者であったが、この内二回には「宍咋刑部四郎枝舟歟」と「海部介兵衛舟」という注がそれぞれ付されている。宍咋、海部はともに橘以南の阿波の港であり、刑部の船はこの港の船持から借りたものであったのかもしれない。いずれにしても、橘が阿波の各港と水運で密接に繋がっていたことを示していると思われる。

東条氏の外港

　戦国期、橘西方の桑野には那賀川南岸地域の有力領主・東条氏がいた。『阿波志』によると天文年間には当主・東条関之兵衛の叔父・東条出羽椽が橘に居留していたというから、橘は同氏の外港的な機能も担っていたと思われる。同じく『阿波志』によると、この東条出羽椽は天正年間に剃髪して宗月と称し、汐干潟を埋め、谷々をひらいて十八町歩に及び、橘の浦を開拓したという。

参考文献

  • 『阿南市史１　原始古代中世編』　１９８７