桑名

くわな

　美濃、尾張を貫流する木曽川、揖斐川、長良川の三河川が伊勢海に注ぐ河口部に位置した港町。鈴鹿山脈を横断する伊勢山越えルートの起点でもあり、そのため美濃、尾張の内陸部と伊勢海、そして畿内中央部の三地域を結節する流通の要衝として栄えた。

　桑名は嘉暦二年（１３２７）の段階で「十楽」の津と呼ばれ、自由立ち入り、自由取引が保障されており、戦国期においても「桑名十楽津」とされ、同様の権利が主張されている。

　 大永七年（１５２７）、桑名を訪れた連歌師・宗長は「みなとのひろさ五六町。寺々家々数千軒」とし、さらに数千艘の船が停泊していたことを記しており、大きく繁栄していた桑名の姿をうかがうことができる。

　 この繁栄を支えたのが、「宿」（宿屋兼取引場）における各地からの商品の取引であった。永禄元年（１５５８）の史料によれば、木曽川流域からは米のほか美濃の紙、信濃の芋、越後・越中の布などが運ばれ、文明十四年（１４８２）の史料からは「三河辺尾張方廻舟」が桑名に入港していることがわかる。尾張、三河からは瀬戸焼や木綿などが運び込まれたと思われ、先述の紙や布などとともに保内商人らによって陸路で京都方面に運ばれた。

　また応永三十一年（１４２４）頃、鎌倉円覚寺正続院の造営用材が美濃から桑名に廻送されている。この材木はおそらく海路で鎌倉に運ばれたとみられ、その他にも桑名から関東方面に移出される商品があったと思われる。

参考文献

  • 綿貫友子　「尾張・参河と中世海運」　（『中世東国の太平洋海運』　東京大学出版会　１９９８）
  • 永原慶二　「戦国期伊勢・三河湾地域の物資流通構造」（　『戦国期の政治経済構造』）　岩波書店　１９９７