『中庸説』(宋刊本)

ちゅうようせつ

 12世紀、中国南宋の張九成によって著された儒書。宋代の刊行本が唯一、京都東福寺に現存。端麗な宋版の実例としての書誌学的価値から国の重要文化財に指定されている。

 朱子学の創始者・朱熹は『中庸説』の著者・張九成を洪水猛獣同様に有害であると批判した。このため張九成の存在は忘れられ、やがて『中庸説』も中国では姿を消す。

 張九成が人々から忘れられかけていた13世紀。中国(南宋)に渡航した日本僧・円爾は、帰国に際して多くの経典や儒書を携え、自身が開山となった京都東福寺に持ち込む。その書物の中の一つに『中庸説』があった(「普門院経論章疏語録儒書等目録」)。

 円爾が『中庸説』とともに請来した朱子学やその後学の儒書は、日本の朱子学受容に大きな役割を果たしたとみられるが、長い年月の間にことごとく喪われていった。このような中で『中庸説』は円爾請来本としては例外的に現存することになる。誰からも注目されることがなく、その為、借り出しや献上による流出を免れたのではないかともいわれる。

 

関連人物

  • 円爾:鎌倉中期の臨済宗の僧。駿河出身。南宋に渡航した後、博多承天寺、京都東福寺を開山。
  • 張九成:12世紀の儒学者。開封出身。

その他の関連項目

  • 東福寺

参考文献

  • 小島毅「唐物としての書物」(河添房江・皆川雅樹・編 『唐物と東アジア 舶載品をめぐる文化交流史』 勉誠出版 2011