吉備津

きびつ

　備中国一宮・吉備津宮（吉備津神社）の門前町。大平山と吉備中山に挟まれた吉備路の回廊部に位置する。備中国の内外に広がる吉備津宮領の中心であり、同領や周辺地域の物資集散や年貢の換金を担った。

吉備津神社の本殿と拝殿。応永三十二年（１４２５）に再建されたもので、国宝に指定されている。
吉備津神社の本殿と拝殿。応永三十二年（１４２５）に再建されたもので、国宝に指定されている。

吉備津門前町の形成と水陸交通

　正和三年（１３１４）五月、吉備津宮領地頭代の請文には、年貢を仁和寺に送進する際に代銭で送る場合は、その時の和市（相場）で換算することが述べられている。このことから、年貢が換金される市が吉備津宮の門前市でであった可能性も指摘されている。

　また永享六年（１４３４）の「吉備津宮旧記断簡」によれば、吉備津宮に対して初尾を毎年滞りなく納める町人には、備中国内の商売における「駒□役」と「海上浦役等」の公事について免除されていた。この頃までには確実に門前町が形成され、吉備津宮に掌握される町人がいたことがわかる。中世、海岸線は吉備津付近にまで迫っていたと推定されている。吉備津門前町は港町としての側面もあり、その町人は水陸両方の流通に関わっていたと思われる。

自治組織「町中」の形成

　室町期の備中国守護・細川氏は吉備津宮社務職を兼務。吉備津宮を影響下に置き、吉備津門前町からは年貢・公事を徴収していた。１６世紀初期の永正年間とみられる「中尾又三郎久隆外二名連署書状」では、細川氏が「町中」に課した諸公事の無沙汰について対処すべく指示を出している。「町中」とは吉備津門前町の町人たちで組織された自治組織とみられ、吉備津門前町の発展もうかがうことができる。細川氏は「町表歴々」に書状の旨を伝えるよう述べており、彼ら「町表歴々」が町年寄的地位にあって自治組織「町中」を運営していたと考えられる。

Photos

吉備津神社の本殿。屋根形式は比翼入母屋造といい、入母屋造の屋根を前後に二つ並べたもの。 吉備津神社の南随身門。回廊の途中に建つ。延文二年（１３５７）の再建で、吉備津神社では最古の建造物。国の重要文化財。なお、回廊は天正年間の建立とされる。総延長３９８ｍ。 吉備津神社の銅鐘。永正十七年（１５２０）に社務代生石兵庫助藤原家秀らが国家安泰を祈願して吉備津宮に奉納したことが刻まれている。 吉備津神社の北随身門。天文11年（１５４２）の再建。国の重要文化財。 吉備津神社の境内入口。正月には多くの人々が参拝に訪れる。 吉備津神社南側の町並み。 吉備津神社南側の三の鳥居周辺の町並み。 栄西禅師生誕地の碑。臨済宗の祖、栄西は吉備津神社の権禰宜・賀陽貞遠の子として誕生したという。 吉備津神社から南へ向かう吉備路から眺めた吉備津神社の社殿。吉備中山麓に鎮座する姿がはっきりとみえる。 吉備津神社から三キロほど南西の足守川河畔から眺めた吉備中山（右）と大平山（左）を望む。 惣爪塔跡。足守川の近くにある。塔の中心柱の礎石という。奈良時代前期には、この礎石の上に塔が建ち、他にも金堂や講堂などの建物がならび、一大伽藍が営まれていたことが想定されるという。 日幡城跡。吉備津神社から南西に約３キロの足守川河畔にある。代々、豪族・日幡氏の居城であったという。

神社・寺院

  • 吉備津宮
  • 普賢院
  • 青蓮寺

人物

  • 賀陽治高：室町期の吉備津宮の神職。応永三十二年（１４２５）、吉備津宮正殿の遷宮の際、左行事の役職にあった。またこの際の次第を「備中国吉備津宮正殿御遷宮次第」として書き記した。
  • 生石家秀：永正十七年（１５２０）当時の吉備津宮の社務代。同年に奉納された梵鐘銘に「社務代生石兵庫助藤原家秀」として名がみえる。備中国賀夜郡十四郷の一つ、生石郷の国人で、守護細川氏の被官であったとみられる。
  • 林家朝：永正十七年（１５２０）の銘をもつ吉備津宮の梵鐘に「大工林但馬守藤原家朝」として名がみえる。吉備津宮から約２キロメートル西北にある阿曾村に住む鋳物師。

城郭

  • 日幡城：在地領主・日幡氏の城。羽柴秀吉の調略により城主・日幡景親が討たれて落城したという。

参考文献

  • 鈴木敦子「十五世紀備中国新見市場をめぐる諸動向」（『日本中世社会の流通構造』）　校倉書房　２０００」