珊瑚(宝石珊瑚)

さんご

 サンゴ虫とよばれるある種の動物によって海中に形成され、古来より宗教的・儀礼的な宝飾品として珍重された宝石。

 近代以前、世界の市場に流通した宝石珊瑚は、ほとんど全てが地中海産のベニサンゴであり、その採集地も北アフリカのアルジェリアとチュニジアの国境に近い海域、サルデーニァ島とシチリア島の周辺海域、ジブラルタル海峡のセウタの近海に限られていた。

海を渡る珊瑚

 1世紀半ばの『エリュートラ海案内記』には、インド西海岸の港町の輸入品の中に珊瑚が含まれており、中国では『後漢書』に大秦国(ローマ帝国)の財宝の一つとして珊瑚が挙げられている。

 7世紀成立の薬学書である『唐本草』には「珊瑚は南海に生ず。波斯国(ペルシャ)および師子国(スリランカ)より来る。」とあり、中国に運ばれた珊瑚がイラン(ペルシャ)を経由していたことがうかがえる。さらに7・8世紀の頃には珊瑚は極東の日本にまで達しており、正倉院御物のなかに奈良時代の珊瑚が納められている。日本においては「胡渡り珊瑚」と呼ばれて珍重された。

珊瑚の産地

 珊瑚の産地につては、アラビア語史料から見ることができる。13世紀ごろ、エジプトの学者ティーファーシーの著した『奇石の書』には、「珊瑚はイフリーキヤの海(東地中海)のマルサー・アルハラズと呼ばれる場所にあり、またイフランジャの海(西地中海)にもあるが、大部分はマルサー・アルハラズにあるものである。そこから珊瑚は、東方(イスラーム)地域、イエメン、インド、中国その他の地方に輸出される。」とある。

マルサー・アルハラズ

 マルサー・アルハラズは、現在のアルジェリアのラ・カールのことで、チュニジアとの国境付近に位置する。10世紀のイブン・ハウカルの著した地理書『大地の姿』などによれば、マルサー・アルハラズには珊瑚を求めて多くの商人が集まり、珊瑚の品質も世界の海の中で最良であった。ジブラルタル海峡付近のサブタ(セウタ)でも珊瑚が採れたが、宝石としての価値は低く、産出量もわずかであったという。またマルサー・アルハラズには専用の加工工場と市場があり、その珊瑚はマグリブのスルタンの管理・統制下にあったとされる。

『諸蕃志』にみる珊瑚

 中国でも13世紀頃には珊瑚についての詳細な情報がもたらされている。南宋の趙如适が1225年に完成させた『諸蕃志』の「珊瑚樹」の項には、「珊瑚樹は大食の眦喏耶国に産出する」とされ、生態や採集方法についての記述もみられる。この「眦喏耶国」は12世紀にマグリブにあったハンマード朝の首都・ビジャーヤの音写ともいわれる。

市場・積出港

参考文献

  • 家島彦一 「地中海産ベニサンゴの流通ネットワーク」(『海域から見た歴史 インド洋と地中海を結ぶ交流史』 2006 名古屋大学出版)